M i s t y
「アンタ 澪って本当の名前だったんだな」
「そっちこそ……よく逃げたわね……
私 毎日毎日 犯罪者の逮捕リストを見たのよ」
「名前がなくて残念だったな 俺はずっとアンタを見てた」
「どこで? 近くにいたの?」
「あぁ アンタ 俺に接触したってことで
長いこと公安に見張られただろう?
まったく気の抜けた顔をして歩きやがって 見てるほうがイライラした」
「私はアナタが捕まったんじゃないかって心配で
怪我のあとはどうなったのかなって……
なんでもっと早く顔を見せなかったのよ!」
雄也の手が勢いよく私を引き寄せた。
激しくて、乱暴で、自分勝手な雄也の唇は、私の口を強引に押し開け
何度も吸い上げる。
半年間追い求めた男の情熱を一身に受け、足元がふらつくほど唇を
合わせ続けた。
「澪……一緒に来るか」
一瞬の迷いのあと頷くと、雄也は私の手をとって走り出した。
大通りは最近急激に増えた監視カメラにより見張られているからと、
路地の合間をぬい、雑居ビルの中を抜け、互いに黙って突き進む。
途中、昔ながらの煙草屋の前の古ぼけた公衆電話で、本部に定時連絡を
いれた。
変わったことはなく、今日はこのまま帰りますと偽りの報告をして……
重い受話器を置き、再び走り出す。
私は、雄也の手をしっかりと握っていた。
あの部屋で別れてから、ずっと求めていた温かさだった。
思い出すのは、張り詰めた空間で触れた雄也の怪我をした足と、
互いを感じあった手であり、乱暴な唇だった。
”一緒に来るか” と問われ、迷いはしたが雄也を求める気持ちに
勝るものはなかった。
この先、手を繋ぐ男と間違いなく抱きあうのだろう。
そのために、私は夢中で走っていた。