M i s t y


奥まった駐車場にたどり着くと、帽子と大きなサングラスを渡された。 



「メガネを掛けてみろ 画面が見えるはずだ 

音はフレームの先から聞こえてくる

画面に神経を集中しろ 

間違っても道を覚えて 頭の中で地図なんか描くんじゃないぞ」


「何でも知ってるのね 訓練されたことを体から追い出すのは難しいけど 

何とかやってみる」


「帽子の中に髪を入れてかぶれ」


「わかった」



私達諜報部員は、目隠しをされても自分の位置を特定できるように

訓練されていた。

研修時代、目隠しをされ様々な場所へと連れて行かされた。

車に乗せられ、右へ左へと曲がる度に頭の中で地図を描き、 

建物の中に入ると、足音と耳に伝わる音の響きで建物の大きさを測り 

見取り図を描いた。

それは情報分析と、自分の脱出のため。 

あらゆる神経を使い、自分の位置を割り出すのだった。


これまで内偵のたびに使ってきた感覚を封じ込め、メガネに映し出される

画面に神経を集中させた。

映画はガヤガヤとうるさくまくし立てるコメディーで、車の外の音は

一切聞こえてこなかった。

どれくらい走ったのかまったく予測もつかないほど、私は画面に

集中していた。

車を降りてもまだ映画は終わらない。

雄也に手を引かれ、何段の階段を昇ったのかさえわからなかった。



「ミオ……澪」


「うん? あっ 着いたの?」


「グラスをはずしていいぞ」



メガネをはずしたが 間近の画像に慣れた目には薄暮の淡い光さえ眩しく

ここがどこであるかを認識するまで、しばらくの時間を要した。




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