妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 ふ、と笑って、呉羽は目を閉じた。
 烏丸の言うとおり、身体が冷えてきた。
 血が流れすぎたのだ。
 朦朧としているのは、牛車の揺れが誘う眠気のせいではあるまい。
 呉羽は、身体を丸めて己を抱いているそはや丸に寄り添った。

「・・・・・・」

 不思議な感覚に、呉羽は、ちら、と視線を上げた。
 ぴたりと寄り添い、しっかりと両腕に呉羽を抱いているのは、険しい顔のそはや丸。
 鋭い目を、前の簾に据えている。

「とろくせぇ。牛を暴れさせてやろうか」

 ぶつぶつと文句を言うそはや丸は、呉羽の視線には気づいていない。
 一心に簾の向こうの牛を睨んでいる。

 何をそんなに苛ついているのだろう、と思い、ふと己の怪我を思い出す。
 そういえば、背中もかなり裂いた。
 己を支えているそはや丸の腕も、血に汚れてしまっているのではないかな、などと考え、そのことにそはや丸が文句を言わないことを、また不思議に思う。

「そはや丸・・・・・・」

 呟くように言うと、そはや丸が視線を落とした。

「お前もあんまりくっつくと、血で汚れるぞ」

 後でねちねち言われたらたまらん、と思って言うと、そはや丸は眉間に皺を寄せた。
 その上で、ちょっと不愉快そうに言う。

「気にすんな。どうせ俺は、そいつと違って、暖めてやれないしな」

 おや、と少し意外に思い、呉羽は思わず、まじまじとそはや丸を見上げた。
 再度『気にすんな』と呟き、ぷいっとそはや丸は顔を背けた。
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