ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
クラスの受付に並び、幹事役に見覚えがなく、名乗ろうとしたら。
「久しぶり」
快活な声をかけられた。
ロングヘアの女性だ。
明るい茶色の髪の毛にそつのないメイクは、派手派手しさはないものの、今日のためにめかしこんでいる印象を感じとる。
誰だろう。
同じクラスにいただろうか、こんな人。
失礼ながら、名前をまったく思いだせない。
「私、田辺ですよ」
「田辺さん……」
そういえば、そんな人がいた。
「もう、誰も私だって気づいてくれないんですよ」
「それは……」
言葉に詰まった。
彼女は和田梓とよくつるんでいたメンバーのひとりだ。
当時も和田梓同様にそれなりに目立つタイプで。
金髪に近い髪の毛に、華美なメイクをしていたものの。
高校生の時、彼女は少しぽっちゃりとしていて。
どちらかといえば、和田梓の引き立て役のような位置づけでしかなかったのに。
それがそこで堂々と対応する彼女は、当時からは想像がつかないほどスレンダーになっている。
上唇の近くにあるほくろが、かろうじて彼女の面影を伝えるのみだ。
「変わってないね、そっちは」
「そう?」
苦笑で返す。
同じことを和田梓にも言われた。
私は、周囲が言うように、この10年で見た目だけは少なくとも変わっていないんだろう。
「会費よろしく」
差しだした私から会費を受けとり、彼女はテーブル上の名簿にチェックを入れる。
この一覧が、同窓会の参加者一覧リストで、出欠が一目で把握できるようになっている。
だったら、宏之が来ているか、それだけでも知りたい。
だけど、すぐに断念しないといけないことに気づく。
宏之の名前を探すには、よそのクラスの受付に並ばなきゃいけない。
そんなことをしたら、怪しまれてしまうだけでしかない。
同じクラスになれなかったことを、舌打ちしたくなった。
嘆息しながら、会場内に足を踏み入れる。