ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

笑い声。

話し声。

咳払い。

ざわめきがせめぎあう。


男性はスーツ姿のフォーマルな格好の人が多く、女性はよそゆきの華やかな格好をしている。

ここにいる人たちが、同じ校舎で、同じ時間を過ごしたというのが、今となっては不思議に思える。

確かに高校時代というものは存在していたのに、今は思い出の中だけに存在するそれは、あまりにもぼんやりと曖昧で。

実体を失い、記憶の中をさまよっているようだ。



戸惑って、足を止めてしまう。

立食なので、決まったテーブルは存在しない。

立ち位置をどこにしようか、キョロキョロ見回しているうちに、前方に設けられたステージにスポットライトがあてられる。


幹事役のひとりがつかつかと前に進み、壇上に立つ。

開会の挨拶を始め、グラスが回ってきてビールがつがれる。


乾杯、と発声のあと、周囲にいる人たちとグラスを重ねあい、歓談に入る。

周りの人たちはそれぞれに高校時代の旧友と再会を果たし、なごやかな時を過ごしている。


が、人が多すぎる。

あまりにもな多さに、気おくれしそうになる。

多すぎる群衆の中から宏之ひとりを見つけだすのは、困難そうだ。


この中のどこかにいるんだろう。

どこかには。

それならきっと。

きっと、再会できる。



その前に、お腹がすいたから、料理でもとりに行こう。

再会の前に、腹ごしらえしとかなきゃ。


飲み干したビールグラスをホテルスタッフに手渡すと、壁際に設置された料理スペースに向かう。

ビュッフェ形式らしく、銀のプレートに湯気の立ちのぼる数々の料理が並ぶ。


ローストビーフがおいしそう。

取り皿を手にして、そちらに向かう。

トングに手を伸ばそうとして、先にそれをつかんだ手があった。


ダークネイビーのスーツから伸びた手は、浅黒くてゴツゴツと骨ばっている。

男性の、手だ。



え、誰?


その手を上へとたどっていく。



「……あ」



勝手につぶやき声が口から漏れた。

たぶん、驚愕の意味も含まれていた。




その彼も、驚愕を隠しきれない表情で。

唖然と私を見おろしていた。

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