隠し蔵書ノ古書物語
カフェを後にした二人は、街を抜け、街から少しはずれにある、古い洋館へと向かっていた。

「修一さん!なにかわかったんですか?」

せかせかと歩みを進める修一に、追いつくのすらやっとの真子は、声も切れ切れに息を吐きながら尋ねると、修一は一瞬立ち止まり、辺りを見渡した。

「あ、あそこだ。」

何やら発見した修一は息をぜーはーとついている真子の手を握り、再び走りだす。

真子は半ば引きずられるような形で修一の後をついて行くと、一面木に覆われた林から古いが立派な洋館がそびえ立っている。

「え、修一さん、ここ、どこですか?」

目を見張るような立派な建築に見入っていると、中から使用人らしき女の人が出てくる。

二人に気づいた使用人は、箒を壁に立ててから、ゆっくり近づいてくる。

「あの、なにかご用でごさいますか?旦那様様は出払っておいでなのですが。」

使用人の女の人が少し怯えたようにそう言うと、修一は使用人ににっこりと微笑んだ。

すると、使用人の女の人は少し落ち着いた表情になっていた。

「いきなり失礼してすみません。此方のお屋敷のお坊ちゃんに、井城坂藤輔という方はおりませんか?」

「お坊ちゃんのお客様ですか?」

「いえ、わたくしは推理作家をしてまして、先日の民家での殺人事件をご存知ですか?」

修一がそこまで言うと、先ほどまで穏やかだった女の人の顔が青ざめたのが見てわかった。

「あ、あの、はい。存じ上げております。あの、隣町と申しても、この林を抜ければすぐの近さにごさいますから。その、それで、作家さんが、坊ちゃんに何のご用で?」

明らかに動揺している女の人に修一はまたも微笑んだ。が、真子から見れば不気味でしかないその笑みは最早通用しないようで、女の人は目すら合わせてはいない。

「ええ、その、少年の死体の第一次発見者が、此方の坊ちゃんと聞いたもので。
新作を書くにあたって参考にお話しできないものかとお尋ねした次第です。」

「あ、あの、今はわたくしともう一人の使用人しかおりません。生憎旦那様も坊ちゃんも出払っておいでですので。」

女の人がそう言うと、修一は一つため息をついた。

「わかりました。では、また後日伺わせていただきます。」

そう言って一つお辞儀をすると、またそそくさと真子の手を引きながら来た道を歩いて戻るのだった。
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