Hurly-Burly 5 【完】

伊織君の肩を両手で阻止する。

させたなるものかというあたしの意気込みだ。

これから、何か呪文を唱えるのではないかと

ハラハラして伊織君の様子を伺う。

出方次第であたしの生命の危機が訪れるやもしれん。

もしかしたら、カエルに変身魔法かけられるなんて

ことになったらお姫様を探しに行かねばならなくなる。

「知りてえーんだろ?」

その止めど無く溢れるフェロモンを多少分けて

もらえないだろうかなんてもう考えない。

「わわっ、ちょっ・・・!」

顔面に広がる伊織君の綺麗な顔に驚きすぎて、

腕に力を緩めてしまった。

「だったら、試して見るか?」

妖しく色気を漂わせて口元を緩める伊織君の

顔がさらに近づいてパニックになった。

こ、これは何の魔法だ!?

顔を近づけるは何の術なのか調べる。

調べるからちょっと待っておけ!

く、くっそー!!

あたしには世界を救えないってのか。

ヒーローたちの思いを背負ってるっていうのに、

そんな情けない話があってたまるか!

な、何かあたしにパワーをくれ。

ダークブラウンの瞳があたしを射抜く、

ふわふわと香る伊織君の匂いと共にやってきた

果実の匂いにハッとした。

「り、りんご・・・りんごだ!」

突然大きな声で叫ぶあたしに伊織君が

困惑気味にあたしを見下ろした。

「毒りんごを食べたんだな・・・魔女の仕業か!」

「・・・・・・この近さでおめーは・・・・」

伊織君が呆れたようにため息を吐く。

哀れんだような目であたしを見つめる伊織君に

してやったぞのドヤ顔をする。

「ハハッ!あたしの嗅覚を恐れいったか!!」

伊織君は明らかに面倒臭そうに少し長い髪を

耳に掛けてさらに顔を近づけた。

ゆ、油断したと思って伊織君を見たら

口元を緩めてニヤリと笑ったのを見逃さなかった。

< 236 / 415 >

この作品をシェア

pagetop