王子様とビジネス乙女!


美しい令嬢が私の方へ歩み寄る。

その目は私を値踏みするようにねめつけており…蔑むような暗い光を放っていた。

「アナタ、ひどいデザインのお洋服ね。

一体どこで買ったの?」

「えっと、下町で」

「うふふ…この学園はアナタみたいな、みっともない娘が来るところではなくってよ。

麗しのレナール様のお側に侍ろうだなんて、もってのほかだわ。

ねぇ、自分でもそう思いませんこと?」


毒々しい視線に射竦められ、私は俯く。

迷惑に思いながらも、私はどこか舞い上がってたのかも知れない。


ナヴィーヤ嬢の言うとおりだ…。


「わ、わたくしも…相応しくないと、思います。
ナヴィーヤ様」

「クスクス、そうよ。

レナール様は高貴な麗しのお方。

アナタ程度の人間が近付いていい方ではないの」

ナヴィーヤ嬢は馬鹿にするように言いながら、私の右腕をがっちり掴んだ。

「さぁ、解ったならカフェテリアに行くわよ地味娘。

新作のケーキをまだ食べていないもの」

「あぁ、分不相応に殿下に侍ってしまってすみませんでした…。

そういうことなのでレナール様。

ご機嫌よう!」

私のようなチンケな小娘は、ここではナヴィーヤ様のように高貴な令嬢には逆らえないのだ。

あぁ美しい王子様のそばに居られなくて残念だなぁ…!


スルスルと物陰から離れていく私たちに、王子様が声をかけた。


「あー…君たち、友達同士だよね?」


「いえ!全然!

こんな地味娘と遊ぶなんてありえませんわ!」

「そうですよ!

私だってこんな派手な令嬢知りませんから!」


「でも今、思いっきり一緒にカフェテリアに行こうと…」


「気のせいです気のせい!」

「そうですの!

ちょっとこの子を説教しようと思っただけですわ!」

「もうわかった、君たちの友情はわかったから。

ちょっと普通に話をしないか?」

「…ヴィーがケーキ食べたいとか言うから。

剣呑さが削がれちゃったじゃん」

「な、なによ。
カドリちゃんだって棒みたいな演技のくせに!」

「ねぇ、普通に話そうって言ったの聞こえてる?

おーい君たち?」


途中まで完璧な演技だったクセに、ほんと最後のケーキで台無しだ。

作戦失敗は全面的にナヴィーヤが悪い。


口論にいそしむ我々の仲裁に皇太子殿下がやっと成功したのは、それから約5分後のことだった。


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