『桜が咲くにはまだ早い三月』
第四章 『返信』 二節
サクラの指先から登るタバコの煙りを追いかけるように天井を見上げた私に
「あら由香ちゃん、ため息なんかついちゃってるよ。」
と言いながら、サクラはゆっくりとタバコの火を消した。
私は携帯を取り出し、浩太から届いたメールを開いてサクラの前に置いた。
「何?
見てもいいの?」
と細く長い指で携帯を取り、三枚並んだ写真を黙って見ていた。
「この車、由香のだよね。
何これ?
田辺浩太って、この間の飲み会に居た安西君の友達でしょ。
あんまり話さなかったけどさ、由香のタイプ?」
なんとなく察しがついたとでも言うように、
そのまま私の手元に携帯を戻した。
こんな時のサクラは余計な事を聞いたりはしない。
「サクラ
サクラの着信音ってどんなだっけ?」
「はぁ?
会話が成り立ってないなぁ。
着信音?
そんなのないよ、バイブだから。」
「えぇ~バイブなの?
メールも?」
「そうだよ。
それがどうかした?
ダメなの?」
「ダメじゃないけどさ、映画館じゃないんだから音ぐらい出せば?
会議中のサラリーマンじゃあるまいし。
でもバイブの方がサクラらしいけど。」
「あのね私さ、浩太と着信音が一緒だったんだよね。
普通のベルのやつ。」
「うん」
「何だか気になって仕方ないんだ。
連絡してないけど、さっきすれ違ったらこんなメールが来たの。
だけどまた裏切られないかなって。
そんな事ばっかり考えちゃって怖くてさ。」
「怖いって、健のこと言ってるの?
もう二年も前の話だよ。
それ、由香のトラウマってやつ?」
私が付き合っていると思っていた彼、
健には私の他に何人もの女性がいて、
私が何番目だったのかは知らないけど、ひどくプライドを傷つけられて、
それ以来ひねくれ者の性格が身についてしまったんだ。
その時、サクラが私を呼んだ。
予想もつかない言葉で。
「由香」
「ん?」
「私、彼のこと好きになっちゃダメかな。」
「え?」
私をじっと見つめるサクラの瞳が、
今言った事はここで急に思いついた事じゃないと
静かに訴えているように見えた。
はぁ?
サクラ
何言ってんの?
うそでしょ・・・
そんなの、冗談でしょ・・・