あの夏よりも、遠いところへ
でも、そこまでしても、雪ちゃんはなにも言わないんだ。ずるいよ。
「……言ってよ」
「朝日ちゃん……」
「陽斗のことが好きだって、言ってよ。陽斗に謝ってよ。わたしにも、謝ってよ!」
なにがこんなに腹立たしいのか、正直、分からない。大好きで自慢の姉が尻軽だったから? ずっと好きだった男を、雪ちゃんはこんなにも簡単に裏切ったから?
分からない。分からないけど、腹が立つ。
それでもお父さんとお母さんの態度も気に入らないんだから、もう、わけが分からないよ。
「……ごめん。ちょっと、頭冷やしてくる」
どうしてわたしは怒ることしかできないんだろう。
リビングでは、お父さんとお母さんが相変わらず不機嫌そうに顔を歪ませていて、苛々が募った。
「ねえ、そういうの、やめなよ」
思わず口をついて出ていた。なにも言わずにはいられなかった。
「雪ちゃんだって人間だよ。一度朝帰りしたくらいで、そんなに怒らなくていいじゃん。もう大学生なんだしさ」
「朝日?」
「お父さんとお母さんがそんなだから、雪ちゃんはなにも言わないんだ」
言えないよ。良い子でいなくちゃいけない家庭で、言い訳すら聞いてもらえない環境で、なにか言えるわけがないじゃん。