あの夏よりも、遠いところへ

「わたしは、朝日」


自分の名前は嫌いだけど。


「アサヒて、朝日? 東から昇るやつ?」

「うん」

「へえ! めっちゃええ名前!」


生意気な目が、くにゃっと細くなった。人懐こそうな、幼い、かわいい笑顔。

一瞬で雰囲気が変わったスミレちゃんに戸惑っていると、彼女はまじまじとわたしの顔を見つめた。


「朝日ちゃんも家出なん?」


「朝日ちゃんも」ってことは、スミレちゃんは家出なんだろうか。家出だろうな。なにせ、こんな服装をしているわけだし。


「べつに、わたしはそんなんじゃないよ」

「じゃあ、散歩?」

「……まあ、そんな感じ、かな」


勢いだけで家を出てきて、帰るタイミングを失っただけなんだけど。日付が変わるまでには帰ろうって、そんな感じ。

雪ちゃん、大丈夫かな。お父さんとお母さんは相変わらずなのだろうか。


「スミレちゃんも、こんなところにいたら危ないよ。かわいいんだし」

「……大丈夫やもん。スミレ、強いし」


この子、たぶん、わがままに育てられてきたんだろうな。面倒くさい、あまり得意なタイプではない気がする。でも、こんなにかわいい子をここにひとり置き去りにはできなくて、黙って隣に座っていた。

彼女もなにも話さない。長い睫毛を伏せ、悲しそうな、それでいて不機嫌そうな表情をして、つま先を見つめるだけだ。
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