あの夏よりも、遠いところへ
「スミレはな、兄ちゃんのことが好きやねん」
実の兄を好きになるとか、そんなの漫画の世界だけだと思っていた。
でも彼女の横顔は真剣そのもので、本気で彼女は悩んでいるのだろうと思った。彼女はきっと、16年間、悩んで、苦しんできたんだ。言葉にできない想いを抱えて。
「おかしいやろ? おかしいねん。こんなん、おかしいねんな」
「……おかしくないよ」
たしかに普通ではないかもしれないけれど。誰かを好きになるのは、仕方のないことだと思う。正しいか間違っているかなんて、たぶん、誰にも決められない。
「朝日ちゃん、変わってんなあ」
「そうかな」
「うん。オモロイ」
彼女がくにゃっと笑った。その笑顔に、なぜか、清見を思い出した。
「でもな、兄ちゃんめっちゃ腹立つねん。きょうも朝帰りしてさー」
「朝帰り?」
「うん。女と泊まってきてんで。スミレの気持ちも知らんと」
朝帰り。とてもタイムリーな単語だ。
やっぱり、どこの家庭にだってあることなんだ。雪ちゃんがあんなに怒られる必要なんて、どこにもないんだよ。そう思うとまた腹が立ってきた。
「うちのお姉ちゃんも、今朝、朝帰りだったよ」
「ほんま? オソロやん!」
そんなことでオソロという言葉を使う彼女が可笑しくて、笑える。女子高生だなあと思った。わたしも女子高生だけど。