あの夏よりも、遠いところへ
ふたりきりの公園には、静寂と暗闇が、そして星の光だけが降り注いでいて、なんだか異世界みたい。
「――おい、スミレ!」
そこに響いた透き通る声は、目の前の女の子の名前を呼んだ。彼女の顔を見ればすぐに分かる。この声の、近づいてくる足音の持ち主が、スミレちゃんのお兄さんだって。
「兄ちゃん……」
会いたくなかったような、それでいて、迎えに来てくれたことに喜んでいるような、複雑な顔。恋をしている女の子の顔だなあって思った。
「おまえこんな時間までなにしとんねん! オトンもオカンもめっちゃ心配してんねんぞ!」
驚いた。本当に驚いたときって、声すら出ないものなんだ。
「……って」
彼の瞳がわたしを捕らえ、小さく声を出した。目が合う。逸らせなくて見つめていると、彼も負けじと、まじまじ見てくる。
「北野、か?」
「……うん」
もっと気の利いたことを言えればよかったんだけど、仕方ない。色々と混乱している。
だって、清見だったんだ。スミレちゃんのお兄ちゃんで、彼女の好きなひとで、それで、女の人と泊まって朝帰りをしたってのが、全部、清見だったんだよ。声も出ないよ。
「こんなとこでなにしてん?」
それはこっちの台詞だ。