あの夏よりも、遠いところへ
たぶん、全員が戸惑っていた。
ていうか、全然似てないじゃん。こんな美人な子のお兄ちゃんが、まさか清見だなんて思わない。どうして彼女は清見を好きなんだろう? 家ではもっと違う顔を見せているのかな。
ああ、でも、そうか。さっきスミレちゃんを叱った清見の顔は、たしかにちょっと、男らしかった。かもしれない。
「……なあ、知り合いなん?」
静寂を切り裂いたのはスミレちゃんだった。
「おう。クラスメートや。こんな妹がおるて知られてめっちゃ恥ずかしいわ」
「なんでそうなんねん。もとはと言えば兄ちゃんが悪いんやろ」
「……それは、まあ。でもスミレが怒る理由は無いやろ」
否定しなかった。ちょっと困った顔で口を尖らせる清見は、本当に、女の人と朝帰りをしたんだ。そういう表情って、分かるものだ。
じいっと見つめていると、目が合って、彼はすぐにふいっと逸らした。
「朝日ちゃんは、知ってるん?」
「えっ?」
「兄ちゃんが誰と一晩過ごしとったか、知ってるん? 学校のひとなん? なあ」
懇願するような瞳に、正直、少し同情した。こんなにもお兄ちゃんを大好きなのに、自分勝手に他の女と過ごす清見は、少し残酷だな。
でも、仕方ないとも思う。誰も実の妹に異性として好かれているなんて思わないよなあ。