あの夏よりも、遠いところへ
なにも言えずに戸惑っていると、清見がふいに、スミレちゃんの腕を掴んだ。
「もうええから、帰るぞ」
「嫌やっ!」
「なんでやねん」
スミレちゃんはぼろぼろ泣いていた。呆れた顔をしながらも、ちゃんと頭を撫でてあげる清見は、やっぱり良いお兄ちゃんなんだろうなと思った。
でも、あくまでお兄ちゃんだ。彼が女としてスミレちゃんを見ることは、たぶん一生、ないと思う。
「……コユキと寝たくせに……っ」
コユキ。スミレちゃんはそう言った。たしかに、そう言った。その瞬間、清見の顔が青ざめた。
すべてを悟ってしまったよ。最悪だ。
清見だった。雪ちゃんが一晩一緒に過ごしていた相手は、この男だったんだ。よりによってさ。
「……北野」
最初に彼のくちびるがなぞったのは、泣いているスミレちゃんの名前ではなく、わたしのそれだった。
「小雪って、雪ちゃん?」
「……おう」
ごめん、と、弱々しい声が続く。どうして謝るんだよ。意味分かんないよ。
どこで会ったの? どうしてそうなったの? 付き合ってんの?
色々な疑問が浮かぶけれど、どれも言葉にならない。それに、そんなこと訊いたって、なんの意味もない。
雪ちゃんと清見が寝たことに、変わりはないんだ。