あの夏よりも、遠いところへ

なんだかすべてに裏切られたような感じ。絶望的にしんどい。立ってるのも、呼吸すら、しんどいよ。頭痛い。


「付き合うてるとか、そういうのちゃうねん。一回だけ」


だからなに? むしろそっちのほうが最悪じゃん。


「……俺が、あかんかってん。やし、小雪さんのこと責めんといてほしい」


なに馴れ馴れしく「小雪さん」とか呼んでんだよ。

意味が分からない。分かりたくもない。どんな言い訳も、いまは聞く気になれない。


「……死ね」


震える喉が必死に絞り出した言葉は、文字通り、最悪の殺し文句だった。


死にたいし、ぶっ殺してやりたい。清見も、雪ちゃんも、お父さんも、お母さんも。

あんなに無垢に見えていた、まぶしかった存在は、もう汚れてしまった。しょせんそんなもの。世界は汚いものであふれかえっているんだ。

あんなに初恋のひとを想っていたじゃん。彼女のためにピアノを弾くって言っていたじゃん。


「もう二度と、ショパンは弾かないで」


清見はなにも言わなかった。泣きそうな顔で地面を見つめるだけ。泣きたいのはこっちだっての。


救いだと思っていたんだよ。清見のピアノは、わたしにとって、救いそのものだった。

世界にはこんなにもきれいな生き物がいるんだって、まぶしかったんだ。


なんだか、世界中のすべてに裏切られた気分。

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