あの夏よりも、遠いところへ

「最初から好きなんて、ありえないっしょ」


陽斗は少し笑って言った。


「じゃあどうして好きになったの? いつから?」

「なんだよ、気持ち悪いな」

「言ってよ」

「さあ……なんでだったかな。気付いたら特別になってたよ。そんなの理屈じゃねーもん」


はぐらかされた。でも、半分は本当だと思う。

恋ってそういうもの。だからきっと、他の人間は絶対に敵わない。好きになったら、そのひと以外は、目にも入らないんだ。悔しいくらい。


「朝日、誰を好きになったの?」

「へっ」


予想外の質問に、変な声が出てしまった。


「朝日は分かりやすいよな」

「べつに……そういうんじゃ」

「きょう荒れてんのも、そいつのせい?」


たぶん、なにを言ってもダメだと思う。陽斗はむかつく笑みを浮かべて、わたしの頭を撫でた。子ども扱いされている。ふたつしか変わんないのにさ。


清見を好きだなんて、考えたこともなかった。だいいち、あまり親しくしゃべったりしないし。ただ偶然ピアノを聴いて、球技大会で助けてもらって、誘われたからなんとなく試合を見に行って、一緒にバスケして。それくらい。

清見のピアノ、好きだよ。彼の纏う、きらきらしたオーラみたいなものは、彼の人格そのもので、素敵だと思っていた。そんなやつが切ないショパンを奏でるんだから、なおさら。
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