あの夏よりも、遠いところへ
ぼうっとしながら歩いていたせいか、ばさばさと、持っていたものすべてを廊下にぶちまけてしまった。
「……やだな、どうしたんだろ」
「ほんまに体調悪いんやったら、保健室行きや?」
「ううん、大丈夫」
遠くまで滑っていったノートを拾いに行くと、わたしよりも先に、それを拾い上げる手があった。
「……清見」
「はい」
「……あり、がと」
なんだよ。カタコトなんてかっこ悪い。
顔は見ることができなかった。たぶん清見もわたしを見ていなかったと思う。
彼の隣に立つ遠藤くんと目が合って、なんだか気まずかった。遠藤くんはなにを考えているか分からないから、少し苦手だな。話したこともないんだけど。
「北野さん」
「えっ?」
「めっちゃ顔色悪いで。あんまり無理したらあかんよ」
たぶんはじめて声を掛けられた。正確に言えば「ナイシュー」以来に。遠藤くんは最後に完璧な微笑みを残して、すでに歩き始めている清見を追いかけた。
たしかに彼はきれいな顔をしている。おまけにこんなフェミニストとくれば、女の子は放っておかないだろうな。
それでもその隣の背中を目で追ってしまうんだから、情けないよ。