あの夏よりも、遠いところへ

ぼうっとしながら歩いていたせいか、ばさばさと、持っていたものすべてを廊下にぶちまけてしまった。


「……やだな、どうしたんだろ」

「ほんまに体調悪いんやったら、保健室行きや?」

「ううん、大丈夫」


遠くまで滑っていったノートを拾いに行くと、わたしよりも先に、それを拾い上げる手があった。


「……清見」

「はい」

「……あり、がと」


なんだよ。カタコトなんてかっこ悪い。

顔は見ることができなかった。たぶん清見もわたしを見ていなかったと思う。

彼の隣に立つ遠藤くんと目が合って、なんだか気まずかった。遠藤くんはなにを考えているか分からないから、少し苦手だな。話したこともないんだけど。


「北野さん」

「えっ?」

「めっちゃ顔色悪いで。あんまり無理したらあかんよ」


たぶんはじめて声を掛けられた。正確に言えば「ナイシュー」以来に。遠藤くんは最後に完璧な微笑みを残して、すでに歩き始めている清見を追いかけた。

たしかに彼はきれいな顔をしている。おまけにこんなフェミニストとくれば、女の子は放っておかないだろうな。

それでもその隣の背中を目で追ってしまうんだから、情けないよ。
< 178 / 211 >

この作品をシェア

pagetop