あの夏よりも、遠いところへ
保健の先生、いないんだ。ということはふたりきり。
「……そろそろ戻ろう」
この微妙な空気に耐えられなくて、ベッドから出ようとした。止めたのは清見。なにも言わないで、そっとわたしの手首を掴んだ。
「……ごめん」
前触れもなく謝られると、こっちも反応に困るっての。
「ほんまにごめん。小雪さんとのこと、正直、絶対に北野には知られたない思てた。でも……北野には、嘘つかれへんかってん」
清見は泣きそうな、なんとも情けない顔をして続ける。
「でもな、ほんまに、ちゃうねん。小雪さんとはなんでもない。ただ、俺の……俺の女々しい初恋を、成仏させてくれただけや」
成仏とか、よく分からないけれど、本当だと思う。
ということは、清見の初恋は、終わったのかな。
「俺な、あれからずっと……北野のこと考えとった」
清見は不器用な男だなと思った。気付けばわたしは、彼の両腕に包まれていて、身動きが取れない。
「ちょっと、清見……」
「なんて言うたらええんやろう?」
そんなの知らない。知るかっての。
でも、分かる。清見が一生懸命なにかを伝えようとしてくれていることだけは、痛いくらいに。
この気持ちは、真っ直ぐわたしに向けられている。わたしだけだ。そこに、初恋のひとや、雪ちゃんはいない。
清見とわたし、ふたりだけの世界だ。