隣の彼の恋愛事情
「やっぱりこんなところに、ホクロがあって斗馬って名前の人そうそういません。」
私は彼の左手を勢いよく掴んだ。

赤マニキュアの女がこっちを睨んでいるがお構いなし。
好奇心いっぱいの目で私が三浦さんをみていると別の方向から

「三浦オーナー。お電話が入ってます。」
と言うスタッフの声がかかった。

「オーナー!!!!」
私は思わず素っ頓狂な声を上げる。

三浦さん(もう私の中では決定事項なので)は、あちゃ~っという声が聞こえてきそうなほど顔を歪めて、握られていない右手の甲を額に当てている。

「社員の副業は我社では禁止されています!」
鉄仮面の弱みをみつけた私は、ここぞとばかりにいじわるで言ってみた。

三浦さんのこめかみがピクピク動いている。

(あ~はじめて動揺してる顔みたかも)
にやっと笑いが出てしまった。

「今、行く。」
三浦さんはスタッフに軽く声をかけてから私を正面から見据えると

「お客様お話があります。こちらへどうそ。」
ひきつった顔のまま私が掴んでいた左手で、私の腕をつかみ直してスタスタと歩き始めた。

「トーマー」
「紅ちゃん!」

赤マネキュアの女と、おさわり男の声がフロアに残された。

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