椿ノ華



「幸せにな」


微笑んでくれた啓一郎に、何も言えなくなってしまって。


「…そう生きるしか、ないのね」


誰も居なくなった裏庭で一人、小さく呟いた。



―・・・


「行くぞ、椿」

「…はい、葵さん」


ロールスロイスを降りて、葵の腕に自らの腕を絡める。

大丈夫。いつもと同じ。

ただ、紹介のされ方が違うだけ。







もう二度と逢えないと思っていた、
愛しい人に会わなきゃいけないだけ。

そう暗示して着た真っ赤な着物は、武装だ。



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