椿ノ華
「…凄いホテルですね…」
「はは、自慢のホテルの一つだよ」
誇らしげに言う啓一郎。
先程から支配人という男性に案内されて歩いているが、
すれ違う従業員皆が頭を下げる。
当主なのだから当然なのだろうが、
堂々と歩いていく啓一郎の後ろを俯いて着いて行くので精一杯だった。
今日は、南十字のホテルでディナーをするらしい。
「…緊張、します…」
「まあまあ、あまり固くならずに」
「そう言われても…」
椿の掌には、じんわりと汗が滲んでいる。