椿ノ華
「し、失礼します…」
恐る恐る部屋へと入り、ふと後ろを見返ると、
秘書は一礼して扉を閉めてしまった。
「…あの、えっと、南十字椿ですが…」
正面にある多きな机に向かっている老人に、声を掛けた。
彼が"南十字啓一郎"なのだろう。
「ああ、よく来たね」
彼は振り返り、温和な笑みを浮かべた。
「…綺麗になったものだ」
「はあ…?」
「まあそう堅くならずに。久し振りの再会なのだから」
「再会…?前にも会った事があるんですか?」
「ああ、君がまだ小さい頃にね。
君のお母さんが連れて来たんだよ」
…知らなかった。
「君は…ずっと、お母さんと二人で?」
「え…あ、はい…そうです」
「…すまなかった」