椿ノ華
「お前は、父親の事も俺の存在も何も知らなかったんだろう」
「はい。唯一の肉親は母だけだと。父親は、
私が出来たと知らせる前に亡くなってしまったと聞いただけです」
「そうか。…俺は、お前の存在を知っていた」
「え…そうなんですか?」
「ああ。祖父さんから聞いていたからな。
時が来れば、一緒に住みたいと」
小さく呟いた葵の弱々しい声。
「…俺はまだ幸せだったのかもしれないな」
僅かだけれど、聞こえてしまった。
「…不幸比べなんて、するものじゃありませんよ。
私は、それなりに幸せでした。
人其々の感じ方の違いなんじゃないでしょうか」