明日ここにいる君へ
「あ。そうだ。」

悠仁はそう言って。自身の鞄をしばらく漁ると…。

私の頭上に、ふわり、と何かを乗せた。


「アンタの必需品。『俺のタオル』。」

「え…、いいよ。必要ナシ。」

「頭皮が焼けてハゲるかもよ?猫っ毛だし、弱そう。いいから…ないよりはマシだろ。」

「…………確かに…。」

直射日光を遮断するだけで…、自分に熱が籠るのを、大分軽減してくれる。

「ホラ、後ろ向いて?」

君は…大きくて無骨なその手で。
タオルの端と端を…後ろで結ぶ。


「おー…、いいじゃん。サポーターって感じ。」


私が被っているソレと同じものを…悠仁が、首に提げる。

応援チームの、ブルーのタオル。


君は私の思惑など…知っているのか、それとも…知らないふりをしてるのか。

さっき私が飲んだペットボトル。その蓋を…あけて。ぐびっと一口、口に含んだ。

喉仏が…上下するその様を、ぼんやりと眺めて…。

ついつい、考えてしまう。


こういうこと、全然気にしない人なんだなあ…って。


確か前にも…似たようなことがあった。

ヤツが飲んでいたカフェオレ。その、ストローが…私の口にあてられて…、

…………………。


「………?七世、どうした。」

「……いえ、何でも。」

あんなことするのは…、私にだけ?


「あー、早くはじまんねーかなー。」

君は…ワクワクとした顔つきで、ピッチで練習に励む選手たちの動きを…じっと見つめる。

まるで、バスケをしている時の…顔。それと、同じ。

私もまた……、初めての光景に。
キョロキョロと…周囲に目をやった。


地元チームのホームスタジアム。

遥か遠くに、敵チームの黄色のユニフォームを来た応援団の姿と……

巨大なスクリーン。

サイド側、それから…私たちのいるスタンドは、ほぼ…青一色。


悠仁が目で追っているのは…ボール。

けれど…いつもの、茶色のボールではない。



ここは……

サッカースタジアム。




何故……悠仁は、ここに私を連れて来たんだろう。



「………俺ら、外で会ったことって…余りないじゃん?」

君は…前を向いたまま、ポツリと…呟く。

「お互いの…家、学校、通学路…。すげー狭いテリトリーん中でしか会えないの。それっておかしくね?」

「……………。」

「それに…1個くらいは、教えてやろうと思って。俺の…好きなモノ。」

「……うん…。バスケだけじゃ…なかったんだね。」

「………。まあね。……あ、七世…、行くぞ!」

「え!ちょっと…?」

君が…私の手を引いて。

バックスタンド席の階段を…かけ降りる。

「ねえ、何?座って応援しないの?」

「いーから!」



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