鈍感ガールと偽王子
『失敗しても、ここに帰ってくればいい』
椎葉くんの家を出るとき、囁くように耳元で言われた言葉。
リアルに感じた吐息にドクンと心臓が跳ねて。
これ以上ないくらい嬉しいセリフに泣きたくなって。
言葉なんて返せなくてあたしは黙って頷くと、ポン、と優しく背中を押された。
衣服越しに確かに感じた、大きくて温かい掌にあたしはまた、泣きたくなった。
……どうしようもなく、嬉しくて。
外は冷たい風が吹いていて、あたしはコートの前を掻き合わせた。
一度、振り返って今自分が出てきた部屋のドアを見る。
……大丈夫。
ちゃんと、謝れるはず。
あたしは前を向いて、歩き出した。