恋するキミの、愛しい秘めごと

「俺が頼んだんだから」という言葉と共に、榊原さんに追加で差し出された航空券。

何度も断ったけれど、もうキャンセル出来ないからと差し戻されて、「分割で買い取ります」と言ったら笑われてしまった。


「あと、一応ドレスコードがあるから、ちゃんとした格好で行ってね」

「え!?」


まさかの発言に驚きの声を上げると、正面に座って知らぬ間に日本酒を煽っていた篠塚さんが「ドレス貸そうか?」と私の顔を覗き込んでいて……。


「あー、でもサイズ合わないかも」

胸元を見つめて考え込んだ後、同情の表情を浮かべて残念そうに呟いた彼女に、思いっきり顔を顰める。


確かにね、私の胸なんてスタイルのいい篠塚さんのそれと比べたらフルコースで言うところの前菜程度の物かもしれないけれどもね。


しかも――。


「榊原さん」

「ん? 何?」

「……なんで笑ってるんですか!?」


前田さんと話していて聞いていないと思っていたのに。

背中を向けているものの、明らかに小さく肩を震わせている榊原さんを睨みつける。


他人にどう思われようといいのだけれど、さすがに榊原さんが笑うのはシャレにならないでしょう!?


「いや、うん? 笑ってないよ」

「笑ってました。思いっきり肩を揺らしてました」

あまりに清々しい嘘に、呆れながら溜息を漏らす。


すると榊原さんは楽しそうに笑って、「俺は好きだったけど」なんてしみじみ言うから言葉に詰まってしまった。


お互いの雰囲気からして私と榊原さんはもう別れていて、恋人という関係ではないと思うのだけれど、よく考えたら“別れよう”的な言葉は交わしていない。

こうして会ってみても、やっぱりあの頃のように胸がドキドキするとか、そういう感情は湧かないし。


“好きだった”という言葉は過去形だし、私の胸についての暴言――というか冗談だという事は解っているのだけれど。

頬杖をついて私を見上げる茶色い瞳がほんの少しだけ、優しく細められたから……。


「……もういいです」

誤魔化すように顔を背けて、前田さんに頼んだ浦霞をグビグビ飲み干した。

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