恋するキミの、愛しい秘めごと
手荷物引取り場でトランクを受け取り、ヒースローエクスプレスでロンドン市内に向かう。
車窓から見える白壁の可愛らしい家々は、いかにも“イギリス”という感じで、やっと自分が海外にいるのだという実感が湧いてきた。
電車に乗って揺られること、30分。
パディントン駅で電車を降り、一先ずホテルに向かう。
「荷物、持って来すぎたかな」
部屋まで荷物を運んでくれたボーイにチップを渡し、持って来たドレスをハンガーにかけると、残りの物は備え付けのクローゼットに放り込んだ。
そうしたらいよいよやる事がなくなって、ベッドにドサリと体を投げ出し、白い天井をボーッと見上げる。
「はぁー……。さすがに疲れた」
日本からここまで、約13時間か。
もう逢えないかもしれないとさえ思えたカンちゃんに、まさか半日程度の時間で逢いに来られるとは。
まぁ、一番は時間の問題じゃなく、心の問題だったんだけど……。
ゆっくりと体を起こし、窓辺に向かうと、日が暮れて暗くなり始めた街に灯が灯り始めていた。
大きな窓からは、レンガ造りの歴史がありそうな建物が見える。
――ここはカンちゃんがいる国。
今では“逢えるかもしれない”というだけで、こんなに緊張しているのに……。
1年数カ月前まで一緒に住んでいたなんて、本当に信じられない。
そんなことを考え始めると、離れてしまった距離を再認識して、また怖くなって。
いつからこんなにマイナス思考になっちゃったんだろう。
そっと触れた窓はヒンヤリと冷たくて、火照った体を冷ますのに丁度いい。
そこにおでこをコツンつけて、瞳を閉じた。
そもそも私は、ここに来てどうしたかったのだろう。
榊原さんに頼まれたからというのも勿論あるのだけれど、それだけじゃなくて、自分がカンちゃんに逢いたいと思ったから。
だから来たのだけれど……。
もしも逢えたとして、私はカンちゃんに何を言えばいいのだろう。
――カンちゃんの事が好き。
ここまで来たら、それはもう認めざるを得ない。
だけど、その気持ちを伝えるの?
伝えてどうするの?
気持ちを伝えて“はい、そうですか”で終わるわけはない。
伝えて、カンちゃんの気持ちを聞く?
でも聞いたところで、どうなるんだろう……。
カンちゃんがいなくなった時、私はてっきり、まだカンちゃんと篠塚さんは付き合っているものだと思っていた。
そんな彼に“自分が、日和の特別な存在だと思いたがっている”――そう言われて……。
自惚れかもしれないけれど、篠塚さんがいるのに私に気持ちが揺らぐ自分が許せなくて、それで私から離れたのだと思っていた。
けれど実際は、カンちゃんはあの時点で篠塚さんとも別れていた。
それに、高幡さんに告げた“終わりにする”という言葉も。
本当に、ただ私から離れたかったからイギリスに行ってしまったのかな?
そんなことを悶々と考えていると、また胃がシクシクと痛み出して困ってしまう。
パーティーは、明日夕方4時から始まる。
それまでに胃痛でダウンしては元も子もないのだからと自分に言い訳をして、結局何も考えられぬまま、シャワーを浴びてベッドに潜り込み、無理やり瞳を閉じた。