恋するキミの、愛しい秘めごと
美術館に着くと、入り口にはタキシード姿の男の人が立っていて、カバンから取り出した招待状を見せる。
自分宛ての物ではなかったから、ちょっとドキドキしたけれど……。
上司の代理であること告げると、特に疑われる事なく通してもらえたのでホッとした。
歴史のある美術館は重厚な石造りで、赤絨毯の敷かれた大きな部屋では、美しく着飾った招待客がシャンパンを片手に談笑をしている。
――やっぱりギリギリに来てよかった。
当たり前だけれど、周りを見るとその招待客のほとんどが外国の人達で、どう考えても溶け込めそうにない。
そもそも、今の私は談笑をして楽しめる気分でもないんだけどさ……。
さっきから無意識のうちに捜してしまうのは、カンちゃんの姿。
けれど、ウェイティングルームとして開放されているこの部屋で、その姿を見つけることは出来なかった。
ガッカリしたような、ホッとしたような――矛盾した感情に自分でも戸惑ってしまう。
ここまで来たら、腹を括るしかないのは分かっているのだけれど……。
緊張を静めるように、ボーイが運んできたロゼ・シャンパンのグラスを受け取り、喉にゆっくり流し込む。
「ふー……」
程よく冷えたシャンパンが、カラカラに乾いていた喉を潤しながら滑り落ちていく。
そう言えば、高幡さんは来ていないのかな?
カンちゃんの師匠で、あの“地球”の原型となった物に関わっていて、尚且つ同じ職場で働いている彼なら、このパーティーに出席していたとしても何ら不思議ではない。
さっきよりも更に人が増えた部屋の中を、キョロキョロと見回してみる。
けれど結局その姿を見つけることは出来なくて。
仕方がないから、時間がくるまで柱の陰に置かれていた椅子に腰かけ、パーティーが始まるのを待つことにした。
「……」
ボーっとしながら会場内を眺めていると、所々で「ミヤノ」という名前が口にされていてるのを耳にする。
話の内容をこっそり聞いていると、それは今回のこの“地球”の話題だったり――詳しくは分からないけれど、多分カンちゃんの今のこの地での仕事の事であったり。
カンちゃんってば、海外でも出来る子なんだね。
手持無沙汰な私の手には、ピンク色のシャンパンが入った華奢なグラス。
それに、カンちゃんの簡単な経歴と、このパーティーのプログラムが書かれた小さな冊子があった。
――この写真は、いつ撮られた物なのだろう。
前よりも少しだけ長くなった黒い髪。
顔は、少しだけ痩せたかな……。
だけど正面を見据えて微笑む黒目がちな瞳は、1年前と何も変わらない。
冊子から顔を上げた私の正面には、大きな扉があって……きっとその先に、カンちゃんがいる。
そう思うだけで、胸がしめつけられるようにギュッとなって。
ゆっくりと瞳を閉じた瞬間、ザワザワと騒がしかった部屋に、木製の重厚な扉が開く音が響いた。