スーツを着た悪魔【完結】
そんな人気者の彼はいつも人に囲まれ、まゆや友人は近づくことすらできなかったのだけれど――
ある日、まゆにとって忘れられない事件が起きた。
――――……
その日はサークルの飲み会だった。
二次会の会場だったカラオケボックスの、廊下にそなえつけられたソファーで、泥酔した友人を介抱しているまゆの前を、足早に男が通り過ぎていく。
「あ……」
友人の背中をさすりながら、思わず顔をあげてしまったのは『彼』だと分かったからだ。
豪徳寺深青。彼はすみれのような、アイリスのような、とてもいい花の香りを漂わせていて、なんとそれは天然の彼の体臭だという。
生まれつき体に芳香を帯びているなんて。
薫る中将――源氏物語の薫の君みたいだ。
「う~……み、ず……」
「あ、水ね。わかった、貰ってくるからまってて」
うなる友人をソファーに残し、まゆは急いでカウンターへと向かう。