スーツを着た悪魔【完結】
それからコップ一杯の水を厨房で貰い、友人のところに戻りながら、自分の目の前を通り過ぎて行った彼のことを考える。
深青さん。
ちょっと急いでいたのは、電話を受けていたんだろうか?
いつもの彼なら、たとえ名前は知らなくても、サークルのメンバーには優しく会釈の一つでもしてくれるのに。
その会釈ひとつで、私たち女の子はいつだってバカみたいに舞い上がって、きゃあきゃあと盛り上がっていることを、彼は知っているんだろうか……。
彼の、どこか色気のある端正な横顔を思い出すと、なんだか息が上手にできなくなる。
話したことなんか一度もない。
そしてきっとこれからも話すことなんか一生ないだろう。
だけど、最初から住む世界が違う人だ。
何も期待なんかしていない。
「ほら、飲んで」
「ありがと……」
友人に水を飲ませると、彼女は「ちょっとトイレに行ってくる」と席を立つ。