スーツを着た悪魔【完結】
目の前で繰り広げられているのは現実なのに、どうしてもそれを現実として受け入れられない。
だって『豪徳寺深青』は誰にでも優しくて、公平で
女性にだっていつも微笑みを絶やさなくて――
「そもそもこんなうっとおしい電話かけてくる時点で、お前『ない』から」
一方的に宣言し、ピッと携帯を切る深青。そして体を動かす衣擦れの音。
とんでもない会話に完全に我を失っていたけれど――
もしかしてこっちに戻ってくる?
すぐに離れないと!
きびすを返すつもりで一歩足を引くと、まゆが履いていたヒールが、カツンと音を立てた。
「――ッ」
ピタッとその場に止まるまゆ。
けれど静かなカラオケの廊下で響いた足音は相当で――
「あれ……」
奥から出てきた深青は、角を曲がったところに立ち尽くすまゆを発見し、足を止めた。