スーツを着た悪魔【完結】
「嬉しい……?」
深青はまゆの言葉に軽く衝撃を受けていた。
たかがケーキを食べて、三人でどうということもない話をして、笑いあっただけだ。
なのにまゆはそれを「したことがない」「嬉しい」と泣く……。
そんなことがあるんだろうか。
自分には二人の妹がいて(未散の上にもう一人いる)彼女たちはいつだっておしゃべりに興じ、母と一緒にやれケーキだパイだと作っては、友人をたくさん呼んで、ティーパーティーを催していた。
深青自身、学校の帰りに寄り道をする妹たちを、よく迎えに行ったものだ。
女というものはとかくおしゃべりで、笑っているものだと思っている深青からしたら、まゆの言葉はとても信じられないもので――。
ふと、以前、頼景がまゆをどういう家の女なんだと尋ねたことを思い出していた。
頼景の意図することと彼女の境遇は意味合いが違う気がするが、もしかして彼女は、自分が育ってきたような環境とはまるで違う、もっと厳しい人生だったのではないか……。