スーツを着た悪魔【完結】
「――急に泣いたりしてごめんなさい……っていうか、泣いてばっかりで……恥ずかしいな」
まゆは苦笑しながら、バッグからハンカチを取り出して頬を押さえる。
「いいのよ、そんなこと気にしなくて」
黙り込んだ深青の代わりに、未散はとりなすようにまゆの手を握りにっこりと微笑む。そしてあれこれとまゆとおしゃべりをし、最終的には携帯の連絡先を交換し、ご機嫌で重役室を去って行った。
「――未散さん、優しいね」
深青に聞かせるつもりかどうかはわからない。
ただ名残惜しそうに、ぽつりとまゆがつぶやくのを見て、深青は複雑な気持ちになった。
それは妹に対する嫉妬ではなく(ないとも言えないが)未散とのささやかな時間が、まゆにとってはとても楽しかったのだと知ったからだ。
「優しいか……? 直情型で切れると手がつけられないけどな。見ただろう、さっきのあいつ」