スーツを着た悪魔【完結】
とっさに発言の主である、隣に座っていた男へ、その澄んだ黒い瞳を向ける。
「アルバイトも悪いとは言わないけど、もっと遊んでおかないとさ」
彼はそれまでどこか夢を見ているような雰囲気だったまゆに、真正面から見つめられたことにドギマギしながらも、余裕ぶってそう続けた。
「もっと――ああ……そうですね」
うなずきながら、まゆは目を伏せる。
彼が来てから――豪徳寺深青が放つ香りに記憶が混濁させられていた。
香りはいとも簡単にその昔の記憶を呼び覚ますから、困ってしまう……。
落ち着くんだ、まゆ。
うん、落ち着こう。