スーツを着た悪魔【完結】
わかってるって……
一瞬、背筋を冷たい何かが駆け上がったが――
そうよね。アパートの場所だって知っていたんだもの。
それに彼に逆らうことは出来ない。
本当の私を知っていて、嫌わないのは悠ちゃんだけだから……。
まゆは諦めたように携帯をバッグに仕舞うと、駆け足でビルを降り、道を挟んだ前にあるカフェへと向かった。
――――……
夏も本格的になり、外は夜の7時間近になっても十分明るい。
アイスティーを飲みながら、バッグに入れていた文庫本を読んでいると、
「――まゆ」
頭上から穏やかな声が響く。
顔を上げると、上等そうな麻のシャツと、パンツに身を包んだ、悠馬が立っていた。
カジュアルな姿の彼を見ると、昔を思い出してしまう。
優しかった悠ちゃん――