スーツを着た悪魔【完結】
それから悠馬は長期休暇や、試験が終わった後の休みの日には必ず帰省することにした。
「ゆうちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、まゆ」
まゆはもともと本が好きな子だったようだ。
今度はどんな本を読んでくれるんだろうと、わくわくしているのが手に取るようにわかる。
けれどそれを自分から言い出せるタイプでもなく、モジモジしているまゆの手を引いて、悠馬は家族へのあいさつもそこそこに、部屋へと向かう。
彼女は自分でも本を読むが、なにより悠馬の読み聞かせもとても楽しみにしていた。
膝に乗せて、ナルニア国物語を読んであげると、まゆは海の彼方から来た偉大な王の息子、そして獣の王、獅子であるアスランに、夢中になってしまった。
そしてあまりにも夢中になったせいで、エドマンドの命と引き換えに石舞台の上で死ぬ歩ことを選んだシーンで、ひどくショックを受け、寝込むありさまで……。
人が犯した罪を、その命を持って購わなければならない裏切りを、神の子が身代わりになって死ぬ。キリスト教信仰の根本的思想だ。
もちろん悠馬はその後アスランが復活することを知っていたが、それ以降ナルニア国物語を読み聞かせるのは止めた。
彼女の心の中にある石舞台の上では、アスランは今でも冷たい死体のままで横たわっている。
そのほうがずっと魅力的だ。