スーツを着た悪魔【完結】
まゆの部屋ではなく、ホテルの天井だと気付くのに数秒かかった。
吐き出したものを飲み干す女を見下ろしながら、悠馬は緩く息を吐く。
「――出て行け」
「え……」
「出て行けよ。まさか抱いてもらえるとでも思ったのか?」
悠馬の辛辣な言葉に、女は急激に冷め、顔を赤くし、唇をかみしめていたが「気が向いたらまた呼んでやる」その言葉にうなずき、ゆっくりと立ち上がると部屋を出て行った。
悠馬は離婚した元妻にも、ほぼ毎晩同じように奉仕させていた。そして悠馬を愛した妻は子供を欲しがったが、たまに抱いても避妊はきっちりとこなしていた。
悠馬には子供を作るつもりは毛頭ない。自分の遺伝子を引き継ぐ別の生き物を育てるなんて、ゾッとする。
それでも妻はなかなか離婚届にサインをしなかったが――
それも終わった。
「まゆ……」
目を閉じ、隣の部屋で眠っているはずのまゆを思う。
三年会わない間に強くなった君の心を、思い切り、粉々に砕いてしまいたい。
美しくあればあるほど――
その思いは強くなる。