スーツを着た悪魔【完結】
まゆ含め、その場にいた女の子たちは皆、まるで呪文か何かを聞かされているような気分だった。
けれど知識をひけらかす、教えてやる、というような雰囲気ではなく、どうせ飲むならそう言った知識があったほうが楽しいよね、という雰囲気で話すので、素直に聞いてしまう。
まゆに至っては、彼が女に関して最低な部類に入るということを嫌というほど知っているのに……。
穏やかで、低く、甘く、ささやく彼の声はとても魅力的で――
いつまでも聞いていたい、そんな気持ちを起こさせる。
「あーあ……豪徳寺は、いつもおいしいところさらってくんだから」
面白くなさそうに、また別の男がソファーに背中を押しつける。
「いやだな、先輩。僕はちょっとワインの知識をひけらかしただけですよ。遅れた分、目立とうとね」
他の男の指摘を笑顔でかわし、それから胸元に手を入れ携帯を引っ張り出した。
「すみません、ちょっと……」
「おいおい、合コンに来ておいて女?」
「まさか。仕事ですよ。すみません」
彼はにっこりと笑ってソファーから立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。