スーツを着た悪魔【完結】
電話の主はいったい誰だ?
深青は震え続ける携帯に表示される番号を見ながら、考える。
私用の携帯は数限られた人にしか教えていない。
ニューヨークに住んでいる両親だったり、妹だったり
たとえば親友の頼景(よりかげ)だったり……
とにかく親しい人だけだ。
誰かが携帯の番号変えたんだろうか。
そんなことを思いながら、廊下の途中で立ち止まり、通話ボタンを押した。
「どちら様でしょうか?」
『あの……あたし、だけど』
返ってきた声の主は若い女だった。
しかも具体的なことは一切言わない。
あたし?
知らねえよ。あたし、なんて。
どうして女ってのはこう『察してほしい』生き物なんだ?
人からはそうは見えなくても、案外短気なところがある深青は、この時点でかなり苛立っていたのだけれど、そんな態度はおくびにも出さず、丁寧に尋ねる。