スーツを着た悪魔【完結】
「すみません、ちょっと見当がつかなくて。失礼ですが、どこでお会いした方でしょうか」
するとようやく電話の向こうの女は
『二週間前、深青さん……私と……また、連絡するって言ってたよね。だけどないから……』
と焦れたように口にする。
「二週間前……ああ……あの時の」
深青はうなずき、壁にもたれながら窓の外を眺める。
そう言えば二週間前、どこかのブランドのショーがあった。
あの時一緒に飲んだモデルの女だ。
身長が高く、腰まで届く巻き髪で、薄い茶色の瞳をしていた。
とりあえず一番タイプだったから、声を掛けた。それだけだ。
右手の薬指には指輪があったけれど、深青には関係ない。
しかも女はもったいぶることもなく、深青を一目で気に入り、彼についてきたのだから。