スーツを着た悪魔【完結】
「わぁ……」
もう、ここに来て『わあ』だとか、声のないため息しかつけないまゆだったが、やはりそれ以外に言葉が出ない。
5メートル四方程度の空間に、みっしりと苔が生えている。
樹も、岩も、全部苔でおおわれているのだ。
きっとあそこに何気なく置かれている石にだって意味があるのだろう。
「どうやって見るのが正しいの?」
「日本庭園は造られた時代の文化や、宗教にも深く密接してるけど……好きに見ればいい」
「好きに?」
「そう。どう見るか、それはまゆ次第だ」
深青はクスリと笑って、まゆの手をそっと、けれどしっかりと握りしめる。
「Orlandoを始める時に国内外の庭やらガーデンやら見て回ったんだけどさ、本法寺の庭、結構好きなんだ。なかなか豪快でいい」
「本法寺?」
「本阿弥光悦作と言われている『三つ巴の庭』があるところ」