スーツを着た悪魔【完結】
この小さな、けれどとても広い意味を持つ庭で、二人の距離は縮まろうとしていた……その瞬間。
「深青さん、そこで何をしているの!?」
厳しい一喝に振り返ると、和服姿の老女が険しい表情で二人を見下ろしていた。
「ああ……。おばさま。こんにちは」
一気に深青の頭が美しい夢から覚醒する。
目の前にいる彼女は、分家の中でも一番うるさ型の主だった。
まゆは大変な剣幕に驚いて、すぐに深青の手の中から自分の手を抜き取ってしまった。
深青はそんなまゆの仕草を寂しく思いながらも、せっかくの夢のように幸せな時間を壊されたこと――
そして一瞬面倒なのにつかまったことに内心舌打ちしたが、すぐに笑顔に切り替えて微笑み返したのだが。
「こんにちはじゃありませんよ、深青さん。当主の出迎えもせずこんなところで遊んでいるなんて、あなた分家筆頭の御曹司の自覚が足らないんじゃなくて?」