スーツを着た悪魔【完結】
年のころは幾つぐらいなのだろうか。
壮年と呼ぶにも幅があるが、それなりの年齢だろう。
ただ、その容姿は……現実味がなく、血の通った人間に見えず、犯しがたい気配さえ漂わせている。
例えばそれは、古の絵巻物から出てきた高貴な人、そのもの。
立っているだけで華やかなオーラのようなものをまき散らし、周囲の人間をひれ伏せさせるような気迫がある。
「久しぶりにお前に会えて嬉しいよ、深青」
そして彼は、ちらりと目線を外し、老女を見つめる。
それまで深青を激しく非難していた老女は、雷に打たれたように体を震わせると頭を下げ、逃げるように座敷の奥へと下がってしまった。
すぐに誰かがやって来て、彼の足元に履物を置く。
視線だけで人を動かす――
彼はそういう立場にいる人間らしい。
まゆは緊張してごくりと息を飲んだ。