スーツを着た悪魔【完結】
拾ったのも、彼女にわざわざ届けてやろうと思ったからじゃない。
ただ、なんとなくだ。
あの女が困る顔を想像したら、ちょっと楽しくなっただけ。
で、あとからそのモノが親友の頼景の実家が経営するアクセサリーショップと気付いたから、連絡したまでのこと。
これがMDでなかったら、きっと捨てていただろう。わざわざ連絡先を聞いて、直接連絡なんてしなかった。
昨日の今日で、あの生意気な子ウサギに会うことになったのは予想外だったけれど、暇つぶしくらいにはなるだろう。
なにをやらせても飛び抜けて優秀な深青からしたら、日本での生活はほんの少し退屈で――
暇をつぶせるというのはとても大事なことなのだ。
そう。深青は退屈していた。
新しく始めた仕事も順調、家族の仲もよく、親友と呼べる男が一人いる。
周囲からなんの不満があろうかと思われる深青だが、ただ一つ不満なのは、今まで何一つ『夢中』になったり『我を忘れる』という感覚になったことがない、ということだった。
だからって――
あの子ウサギとどうこうなるはずもないけれど。
彼女の澄んだ黒い瞳は、もう一度見てもいいと思っていた。