スーツを着た悪魔【完結】
「来月、旅行に行こう」
何も考えずに、ぽろっと言葉が口をついて出た。
「旅行?」
まゆが驚いたように顔を上げる。
「来月だけじゃない。再来月も、何かしよう。未散たちを呼んで誕生日パーティーでもいい」
「深青……」
「毎月、やるんだ。まゆの誕生日のお祝い」
はっきりと、そう口にすると、深青の中で気持ちが固まった。
「どうして……」
「どうしてって……」
両手でまゆの頬をつつみこむように挟み、顔を近づける深青。
まゆは漆黒の美しい瞳を震わせながら、深青の言葉を待っていた。
「俺が祝ってない分、全部……。まゆに、生まれきてくれてありがとうって、言うために」
過ぎ去った過去は変えられない。けれど今、この瞬間、次の瞬間の未来は、自分の意思でどうにでもなるのだ。
まゆの頬を涙が伝う。
今はもうこれ以上、二人の間に言葉は必要なかった。
深青はまゆの涙を唇で受けとめると、それからゆっくりとお互いの体温を確かめるように体を寄せ、きつく抱き合った。