スーツを着た悪魔【完結】

「――お前、彼女のこと目に入ってないだろう」



深青は真面目な表情を作ると、体をずらし、自分の影になっていて、完全に観客と化していたまゆの肩を抱き引き寄せた。


え?


いきなりのことに動転し、深青に体を抱き寄せられてもすぐに反応できなかった。


なに、いったいどういうこと?


まゆは激しく混乱しつつも、とりあえず体を離そうとする。と、深青の肩をつかむ手の力が強くなる。

どうやら放す気はないらしい。


やだ、なんなのいったい!


突然舞台に引き上げられたまゆは体を固くしたのだけれど――

ふんわりと鼻先を漂うすみれの香りに、一瞬ぼうっと意識が奪われる。


あ……いい匂い。


彼の体から放たれるこの香りは、もしかすると天然のフェロモンなんだろうか。

体全体を包み込まれるような不思議な感覚に、まゆはうっとりと身をゆだねてしまって――
ほんの数秒のことなのだけれど、深青から離れることを忘れてしまっていた。


< 63 / 569 >

この作品をシェア

pagetop