スーツを着た悪魔【完結】
「――お前、彼女のこと目に入ってないだろう」
深青は真面目な表情を作ると、体をずらし、自分の影になっていて、完全に観客と化していたまゆの肩を抱き引き寄せた。
え?
いきなりのことに動転し、深青に体を抱き寄せられてもすぐに反応できなかった。
なに、いったいどういうこと?
まゆは激しく混乱しつつも、とりあえず体を離そうとする。と、深青の肩をつかむ手の力が強くなる。
どうやら放す気はないらしい。
やだ、なんなのいったい!
突然舞台に引き上げられたまゆは体を固くしたのだけれど――
ふんわりと鼻先を漂うすみれの香りに、一瞬ぼうっと意識が奪われる。
あ……いい匂い。
彼の体から放たれるこの香りは、もしかすると天然のフェロモンなんだろうか。
体全体を包み込まれるような不思議な感覚に、まゆはうっとりと身をゆだねてしまって――
ほんの数秒のことなのだけれど、深青から離れることを忘れてしまっていた。