モカブラウンの鍵【完結】
「昨日の慰労会のことは覚えてますよね?」

無言でシーツを握ったまま頷く、佐伯さん。


いい加減、そのシーツでバリケードを作るのは、やめてくれないかな。

俺が悪いことしたみたじゃん。



「慰労会がお開きになる時は、もうベロベロで大変だったんですよ。

呂律は回らないし、自分じゃ歩けないし。

『電車が同じ方向だから、お前が責任持って送れ』って、社長に命令されたんですよ」


佐伯さんの顔は相変わらず、ムスッとしていた。


「佐伯さんの住んでる横浜駅までは行けたんですけど、駅前で『気持ち悪い、吐く』って言い出して……。

どう見ても家の住所も言えそうにないし、家に着くまで吐かずいられそうもないと思って、姉が働いているこのホテルに入ったんです。

昨日が姉の勤務日で良かったですよ、本当に」


黙って聞いていた佐伯さんの顔は、みるみるうちに赤くなる。

そして、俺から目線を逸らした。

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