魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
踊るような足取りで小走りに駆けるラスを追いかけて歩きつつも、これからは南の島で2人きり…

何でもし放題!という色ぼけ妄想に抑制が効かなくなって鼻の下が伸びまくりなコハクは、デスと共にキャリーバッグを持ちつつまだ心臓がばくばく音を立てていた。


「ああぁ俺…死んじまうかも…」


「……魔王…不死…。…死なない……」


「比喩だ比喩!とにかく一応ここにも結界張っておくし、万が一何か起きたらすぐ飛んで来い。まあ、万が一なんか起きねえけどな」


「……わかった…」


「コー、早くっ早くっ。わぁーっ、ルゥちゃん、見て!船だ、おっきぃ!」


コハクが用意したのは十数人が乗れる中型の豪華客船で、すでに改造済みの魔物たちが中に乗り込んで準備を進めていた。

興奮したラスはぴょんぴょん飛び跳ねてルゥと歓声を上げながら満面の笑顔で振り返り、またコハクの胸をきゅう、と言わせた。


「じゃあ行くかー。チビ、足元気を付けろよ」


「デス、離れるのは寂しいけど待っててね。お土産沢山買ってくるから!」


「………うん…」


骨だけの指の手を振って少し目元を緩ませたデスに大きく手を振り返したラスは、荷物を運びこんでようやく隣に来たコハクの腰に抱き着くと、嬉しさを隠せずに船が動き出すとまた歓声を上げた。


「コー、私船に乗るのはじめてっ」


「んー、だってずっと城に閉じこめられてたお姫様だったもんなー。2年前の旅は馬車だったし、こういうのんびりした旅もいいもんだろ?俺も最近働きすぎたからゆっくりしたかったし」


コハクがルゥを抱いてラスを船内に導くと、内部はダンスを踊れる小ホールがあり、幾つかの客室があり、調度類は全て豪華なもので、とても海の上とは思えない。

はじめての経験に感激して身体を震わせているラスの可愛らしさにくらくらしたコハクは、客室に入って備え付けのベビーベッドにルゥを下ろしてラスに手を伸ばした。


「チビ…その…も、もう触ってもいいだろ?」


「え……う、うん…でも私もうちょっと甲板に出てたいな。コーはそこに居ていいよ、私…海の風にあたってくるね」


何を想像したのか頬を赤らめて駆けて行ったラスにきゅんきゅんしてしまってベッドに倒れ込んだコハクは、数分間身悶えに身悶えた後、深呼吸をして甲板に出た。

外には海鳥が飛び交い、そして風の妖精たちがラスの周囲で踊りながら飛び交う。


ラスを楽しませてやれる新婚旅行になる――

楽しんでもらえるような新婚旅行にしよう。

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