魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
はしゃぎ疲れたラスは、甲板に設置されているピーチパラソルの下にあるデッキチェアに腰かけて、眩いばかりの笑顔でコハクに笑いかけた。


「コー、海の匂いがする。あのね、船の下を覗き込んだらお魚がいっぱいついて来てたの。鳥も沢山ついて来てて…」


「あー、魚ね。チビ、ちょっとこっち」


少し落ち着きを取り戻したコハクはラスと手を繋いで階段を降りて狭い通路を歩いた。

階下にはキッチンとバスルームと、そして1番奥にドアがあり、コハクは不敵な笑みを浮かべてラスの両目を片手で塞ぐと、耳元で囁いた。


「俺がいいって言うまで目ぇ開けるんじゃねえぞ」


「うん、わかった。コー、怖いから手を離さないでね」


ラスが両目を閉じると、コハクはラスの両手を引いて部屋の中へと入った。

恐る恐ると言った態で前進すると、なんとなく空気がひんやりしている気がして、心細げな声になった。


「コー…?もう目を開けてもいい?なんか怖いよ…」


「もう開けてもいいぜ。さあどうぞ!」


コハクに促されてそっと目を開けると――


部屋は真っ青なブルー。

部屋に壁はなく、半円を描いて大きなガラスが嵌め込まれてあり、大小様々な魚が泳いでいた。

ガラスの奥は海なのだと気付くと、感激したラスはガラスに駆け寄ってへばり付き、瞳を輝かせた。


「コー!このガラスの奥はもう海なのっ?」


「そういうこと。チビだけのでっけえ水族館だぜ。チビに見せたくてこの船を作ったんだ」


「コー……嬉しい…」


ラスを背中から抱きしめたコハクは、青い光に照らされて瞳の色も青く見えるラスに恐る恐る顔を近付けて、唇を重ねた。

唇が応えてくれるとラスの細い腰を抱いて抱きしめて、またどきどきしていると、何故かラスにくすくす笑われてむっとなってラスの両頬を軽く引っ張った。


「なーんで笑うんだよ」


「だってコーがまた変になってるから。ねえコー…こんなに素敵なプレゼントをありがとう。何か私にお返しできること…ある?」


「あるある。…ここでチビを抱きたい」


潤んだ瞳を見上げてくるラスに恋をして、はじめて経験する甘酸っぱい感情に動揺を隠しきれないコハクは、固唾を呑んでラスの返事を待った。


「うん…私もそうしてほしい。でもコー…夜になったらね。それまで我慢できる?」


「ん、我慢する。なあ、ルゥを連れて甲板を散歩しようぜ」


こくんと頷いたラスの手を引いて、ルゥに会いに行く。

その頃2人の宝物は、ベビーベッドですやすや眠っていた。
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